砂のオンナ

もうロンドンよ、いま。

蝉時雨

書いては消し 書いては消し
目の前にあるディスプレイにはなにも表示されていないのに
あなたへの想いは募る一方で
 
それでも乱暴に書き殴らないと
気が済まない衝動に駆られる
 
どうしていなくなってしまったの
どうしてもう逢えないの
どうやったら逢えるの
どうやったらまたあなたの顔をまた見られるの
 
どうして?どうやったら?
の繰り返しで
気付けばあなたが生まれた夏が終わろうとしている
 
まるでなんどもそのシーンを演じたかのように
最期にあなたをみかけた日のことは
いまでも鮮明に脳内のスクリーンに投射される
自分でフィルムなんてセットしていないのに
したくないのに
時々カタカタいいながら投射される
 
あなたが会場から出て行くのを外で待っていた
暦の上ではもう秋だというのに
ものすごい暑かった
不本意なのにわたしは真っ黒の洋服を身に纏わずにおえなくて
体の芯から熱かった
 
帰り際
「せっかくこうしてみんなでまた顔を合わせられたのだから
定期的に逢おうよ。後悔とかしたくないし。」
と誰かが言った
「そうだね、そうだよね。」
とみんなが口を揃えて言った
 
それはいまだに叶っていないことだけれど
その子がいったそのコトバも
同調した周りのコトバも
きっと綺麗事とか嘘とかじゃなかったんだろうなっていうのは
きちんと分かってる
 
わたしのなかのブレーカーを落としたきっかけの一つが
あなただというのはとても皮肉なことだけれど
強い哀しみの代替が なんらかの教授になったことは
答えのない漠然とした不安がつづいてたことより
何倍もいいかなっていまでは消化してる
 
感謝こそしていないけれど
 
手を伸ばせば いつでもあなたに届いていたのに
手を伸ばしても もう触れられないいまの現実は
ずっと大きな岩を両方の手のひらだけで抱えている気分
 
でもあなたが去った夏さえ過ぎてくれれば
すぐにまた想い出に押し込められるよね